また、ハラスメント問題を人権問題と捉えるか労働契約問題と捉えるかで、ハラスメント問題の概念・問題点・改善策が全く異なります。企業組織の統制そして良好な職場環境の維持を目指すのであれば、職場のハラスメント問題は人権問題ではなく労働契約問題と捉えるべきです。

職場のハラスメントとして大きく「セクハラ」と「パワハラ」に分類することができます。しかし、「セクハラ」と「パワハラ」はベクトルが全く異なります。このベクトルの違いを意識し、職場のハラスメントに対処することが企業の職場環境の改善・維持に不可欠です。なお、昨今、パワハラという言葉は見直され、「セクハラ」と「許されないパワハラ」を合わせた「ワーク・プレイスハラスメント」という言葉に取って代わられています。 |
![]() |
パワハラと「職場のいじめ」とはどこが違うのか |
「パワハラ」とは、パワー・ハラスメントの略であり、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」において、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」と定義づけられています。 しかし、パワー(power)・ハラスメント(harassment)を各単語に分けて翻訳すると、パワーとは「上司」。ハラスメントとは「嫌がられること」。パワー・ハラスメントは、「上司が嫌がられること」。このように考えると、職場ではパワー・ハラスメントは存在して当然のことだとわかります。つまり、使用者の労働者に対する労務提供請求権の履行の一定範囲の権限を委嘱されている上司がその権限を行使する過程・結果において、部下に嫌われることは、企業組織において当然起こりうることです。この当然起こりうる過程・結果を人権侵害だと一緒くたに非難の対象としてしまうことこそ、上司が部下に対し権限を行使することに萎縮し、組織統制がとれなくなってしまい、法令違反や職場環境の悪化を引き起こす事態になりかねません。 そこで、パワー・ハラスメントを「許されるパワハラ」と「許されないパワハラ」に分類し、何が許されるのか、何が許されないのかを区別して、パワハラを議論しなければなりません。 この区別を考える際に「業務の適正な範囲を超える」というマジックワードが取り上げられることが多いのですが、この「業務の適正な範囲超え」ているかどうかを考えるのは極めてナンセンスです。「業務と関連がするかどうか」を考えるべきで、「適正な範囲かどうか」を考えるべきではありません。そして、業務との関連性がない「いじめ・嫌がらせ」に分類される行為を「許されないパワハラ」として非難の対象とすべきです。「いじめ・嫌がらせ」に分類される行為は、そもそも使用者が上司に委嘱した権限外の行為であるので、企業としては、上司個人と部下個人の問題として捉え、その予防と事後対応(職場環境の回復とその維持)に注力すべきです。 同じ職場で働く者に対して、職務上
の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲
を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行
為をいう。
|
|
![]() |

「セクハラ」は、「職場にあってはならないもの」という意識を持つことが必要です。そして、セクハラとは、「(主に)女性が嫌がること全般」を指すということを企業は知っておかなければなりません。そして、なぜ、セクハラが害悪があり企業が根絶しなければならないのか、意外に知られていないその理由を正しく理解することがセクハラ根絶の第一歩です。 |
![]() |
セクハラ報告が受けた場合、やらなくてはならないことは何か |
事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)で、セクハラ報告があった場合の企業が採るべき方針が示されています。この指針の中で重要なのは、「事実関係の迅速かつ正確な確認」です。 セクハラに該当する行為があったかどうかの確認です。事実を確定させることが先決です。 | |
![]() |
|
![]() |
相談窓口の一番大切な役割とは? |
相談窓口は役割は、事実を確定させることです。当事者等どうしの和解の実現を支援したり、加害者に謝罪させたり、加害者に制裁を加えることではありません。和解の実現や制裁は、裁判所等で行われるものであり、企業が介入するものではなりません。指針では、それも企業が行うべきだと示唆していますが、大きな間違いです。なぜならば、和解や制裁まで発展するほどの事案では、企業が解決できるほど、簡単なものではなく、とてつもなく根が深いものだからです。加えて、企業でできることとできないことは、予め被害者に伝えておくことが非常に大切です。裁判所等の解決機関を紹介するに留め、和解や制裁については介入しない旨を前もって伝え、企業に過剰な期待を与えないことが重要であり、被害者に対しても親切な対応だといえます。そして、何より大切なことは、事実が確定される前に評価(ハラスメントの有無の確定等)はしないことです。 | |
![]() |
|
![]() |
直属の上司が気をつけることは? |
セクハラの相談を受けたとき、直属の上司が気をつけなければならないことは、「秘密ごとにしない」ということです。特にセクハラの問題では、相談者はさらなる加害行為が加わることを恐れて、秘密にして欲しいと上司に告げる場合がありますたが、秘密にしてはいけません。人事部や相談窓口に繋げることを宣言して相談を受けて下さい。繰り返しですが、上司の役割は、和解成立の援助や制裁を課すことではなく、職場秩序の改善・回復・維持です。この役割を達成するためには、秘密にせず、人事部や相談窓口に繋げるべきです。上司が抱え込む必要はさらさらありません。 | |
![]() |

「パワハラ」は、セクハラと異なり「職場にあって当然のもの」と認識することが必要です。その上で、「許されるパワハラ」と「許されないパワハラ」があることを知り、企業が根絶すべきは「許されないパワハラ」です。パワハラというつかみ所のない概念を類型化し「何が許され」「何が許されないか」を正しく理解することがパワハラ問題に対処する第一歩です。 |
![]() |
『業務の適正な範囲』とは? |
厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」において、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」とパワーハラスメントを定義づけていますが、裁判例をみると、必ずしも『業務の適正な範囲』を議論しているものではないようです。単純に、『業務を超えているか』を判断し、業務を超えていなければ違法ではなく、業務を超えていれば違法であると判断しているようです。つまり、0〜100ではなく0or100として考えているようです。 |
|