労働者派遣法による指導への対応
労働者派遣法による指導に対して、労働者派遣法や関連する告示等を知っておくことは重要ですが、その指導の背景や性質を知っておくことが、行政指導に過剰反応を示さず、冷静に対応するために必要なことです。
告示とは、国家行政法14条1項「各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、告示を必要とする場合においては、各自を発することができる」との規定に基づき行政が必要な事項を工事する行為又はその行為形式をいいます。告示の中には、法律の委任があるものとないものとの2種類がありますが、少なくとも、法律の委任がない限り、告示が法律の解釈を超えて新たな法規としての効力を持つことは憲法解釈上許されないことから、その法的効果はなく、単なる行政の内部規則に過ぎないものと解することができます。
同告示は、派遣法に委任規定がなく、法的効果はなく行政の内部規則に過ぎないと考えることができます。
なお、法律の委任のある告示の例として、労働基準法第14条1項1号「法制労働大臣が定める基準」(平15.10.22厚労告356号)があります。
法違反の是正指導書の出し方についても、行政の在り方として非常に問題が在ると考えられる点が存在します。是正指導書を出す権限は都道府県労働局長にあり、労働局の一介の職員に過ぎない「需給調整指導官」なる者が勝手に出す権限はありません。ところが、その労働局の職員が出した是正指導書には「○○労働局長」という肩書きは使われているものの、局長名も認証印もありません(公印書力は行政書式内での書類に限られます)。つまり、この是正指導書を労働局長が認識し決裁した痕跡がなく、勝手に労働局の職員が出している可能性があります。また、是正指導書の
労働局保管分の2枚目に署名捺印をさせ、かつ、事業所保管分には
受領書欄に斜線を引くことで受領の事実を残さないとか、別途会社からの受領書を提出させているという実態があります。
一審は、発注企業と当該労働者との間に黙示の労働契約は成立しないと判断していましたが、控訴審は、平成16年1月20日時点の業務委託契約は、脱法的な労働供給契約として職安法44条及び労基法6条に違反し、強度の違法性を有しているため、公の秩序に反するものとして民法90条違反により無効、製造業への派遣解禁後の発注企業と下請企業、下請企業との当該労働者間の契約も、当初の違法、無効を引き継ぎ、公の秩序に反するものとして民法90条により無効、また発注企業が当該労働者を直接指揮監督して工場で作業させ、発注企業が当該労働者の賃金額を実施的に決定する立場にあったとして、両者間に黙示の労働契約が成立すると判断しています。
その後、 平成21年12月18日、最高裁は、請負企業による労働者に対する指揮命令がなく、発注企業がその場屋内において、「注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はない」とし、派遣法に違反している場合の請負企業と労働者との雇用契約は、特段の事情がない限り、そのことだけによって無効となることはないと解すべきだと判断しています。そして、発注企業は、請負企業の労働者の採用に関与していたとは認められず、また、労働者が請負人から支給を受けていた給与等の額を請負企業が事実上決定していたという事情もなく、かえって、請負企業は配置を含む労働者の具体的な就業態形を一定の限度で決定しうる地位にあったとして、黙示の労働契約が成立していたと評価することはできないと判断し、再度結論を覆しています。
派遣法26条7項は、「労働者(紹介予定派遣を除く)の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない」と定めています。
一方、派遣先指針では、「三 派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止」と題して、「派遣先は、紹介予定派遣の場合を除き、派遣元事業主が当該派遣先の指揮命令の下に就業させようとする労働者について、労働者派遣に先立って面接すること、派遣先に対して当該労働者に係る履歴書を送付させることのほか、若年者に限ることとすること等派遣労働者を特定することを目的とする行為を行わないこと 」としていますが、明らかに法律を超える内容を示しています。なお、事前面接に関する是正指導書というのは、実務ではあまり見かけません。
登録型の原則禁止の例外として専門26業務が挙げられていたこともあって、2011年2月に「専門26業務派遣適正化プラン」を厚生労働省が策定し、一般事務と混同されやすい事務用機器操作(第5号業務)とファイリング(第8号業務)の解釈を示し、同年3月と4月に集中的に指導監督を行った事実があります。なお、厳しい指導監督に対しては、人材派遣業界が抗議の声を上げる場面があったことも事実です。そして、同年5月には、「専門26業務に関する疑義応答集」を発表し、Q&A形式で各業務の解釈を示しています。
ただし、2012年改正法では登録型の原則禁止が実現されませんでしたので、今後は専門26業務に関する指導監督は緩やかになっていくものと考えられます。
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